真空管アンプ 

12AU7使用 入力段SRPP 出力段カソードフォロア ステレオプリアンプ

12au7_pri

上の写真は完成したプリアンプ。両サイドと背面はパンチングメタル、特に背面にはコネクター類は一切ついていない。音楽を聴くというより配線を抜いたり差したりとイジクリ回す方が多い人向きのアンプ。操作パネル面にアクセントとして木製のパネルが付いている。

内部構成

アンプ内部は二段になっており、下層が電源部、上層が増幅部。シャーシはアルミ板とアルミアングルにて全て手作り、極限まで小型化を狙うとともに、機能美を追及した。スイッチやコネクタ類は全て前面に配置した。尚、信号経路への余分な回路や部品の付加は極力排除した。セレクタスイッチも付いていない為、信号源の切り替えはピンジャックの抜き差しにて行なう。出力コネクタはキャノン3Pをアンバランスにて使用。このプリアンプのゲインは18dBある。このため接続するパワーアンプは0dBアンプのようなゲインの少ないアンプをつなぐのが良いだろう。この様なアンプの組み合わせはプリアンプとパワーアンプ間の信号伝送レベルが比較的高いものとなり、ノイズ等に強くなると思われる。それよりもプリアンプで増幅してパワーアンプのボリュームで絞ってから、またパワーアンプで増幅するなんてどう考えてもおかしな話だ。また、プリアンプのゲインが少ないのならばいっそプリアンプなど省略してしまったほうが良いように思う。しかるにプリアンプはハイゲインに、パワーアンプはインピーダンス変換のみを受け持つローゲインアンプで良いのだと思う。そんな構想で真空管アンプの製作に取組んでみた。

上部パネル

最上部のパネルはデザイン上、傾斜させた。前の2本がカソードフォロワ用(各チャンネル パラにて使用)、後の2本が各チャンネルのSRPP部。パイロットランプは、これもデザイン上、12V用の豆電球(スイッチ内部の照明用)を裸のまま使用。

10Y(VTー25)シングル無帰還 ステレオパワーアンプ

古典管と言えば45、50等が思い浮かぶが、そんな影に隠れてやや不遇の古典管10。300のドライバー等に時々使われているのを見るくらいだ。今回はそんな10を出力管に使用した無帰還シングルを作ってみた。10と言えば、ひときわ明るく輝くトリウムタングステンのフィラメント、つややかで透明感のある高域、プラスバイアス領域まで振り込んでも出力が大きく崩れないと言う送信管特有の特性を有した球だ。わりと人気がないのかこのクラスの球としては値段もお手ごろだ。300Bや2A3等の様に中国製のイミテーション管が出回っていないのも好感が持てる。歴史の古い球だけに210や310を始めとするいわゆる類似管と言われる個性的なオリジナル球が多数存在するのも魅力的だ。今回はそんな10の裸の特性をとことん堪能すべくカソホロドライブの固定バイアス無帰還シングルとした。これは各種類似球や中古管を使用した時のばらつきを簡単に補正出来るようにとの考えからである。自己バイアスだとカソード抵抗を取り替えるか切り替える、またはレオスタットにして調整する等しらければならない。その点、固定バイアスなら動作点の変更はバイアス電圧を調整する半固定抵抗で簡単に変更できる。また、バイアス回路には殆ど電流が流れないため半固定抵抗は耐圧さえ気をつければ小型のものが使用可能だ。今回のアンプはこの半固定抵抗を前面パネルから簡単に調整出来るような構造とした。必要時に10のプレート電流を監視するための切換えスイッチとメーターも装備している。尚、これらの構造は球をいろいろ取り替えたりする予定がなければ省略可能だ。(今回掲載の回路図にはこれらの回路は記入されていない)

基本回路図はこんなんなってます(PDFファイル25Kバイト)→PDF書類をダウンロード

10Yの平均プレート特性はこんなです(PDFファイル220Kバイト)→PDF書類をダウンロード

 

前回作った12AU7のプリアンプにデザインを合わせて(と言うのは建前で実は狭いアパートのスペースファクターを考えるとこの様な形にならざるを得なかった)下段が電源部、上段が増幅部という構成にした。電源部は2001年頃には完成していたのだが、その後、増幅部の製作が遅々としてすすまず、結局、増幅部が組み上がったのは2004年の春であった。(^^ゞ

部品入手の関係で構成部品や回路が若干基本回路図とは違ってしまった。基本回路図どうりに組み上げても動作するはずだ、、、たぶん、、、。回路各部の定数は若干控えめに設計した為、使用する球は整流管、電圧増幅段、終段とも標準品(軍規格や改良規格の球で無い物)で大丈夫なはずだ。古典管を使用した真空管回路は、球自体にかなり特性のばらつきがあるため、実際の回路の常数は使用する球に現物合わせで調整する必要がある。その為にも、特に抵抗器は回路図に表示の物と、それに隣り合った上下2本の合計3本を用意しておいた方が良い。たとえば1Kオームが回路図に記された値なら1段下の910オームと1段上の1.2Kオームを加えた計3本を用意しておく。あなたがお金持ちなら下2段分、上2段分の計5本を用意できればなお良い。コンデンサーは回路図の値の物のみを用意すれば事足りる。音質と言う点から部品のグレードにこだわりたいなら、コンデンサーにお金をかけるべきである。コンデンサーの材質や品種の違いは音に顕著に現れるが、抵抗器のグレードの違いによる音の変化はかなり分かりづらい物である。しかし、ここでもあなたがお金持ちならば、コンデンサーも抵抗も、ネジの1本までも徹底的にこだわるべきである。趣味における醍醐味とは、まさにその辺りに存在するのだから、、、。

バイアス回路は、自己バイアスの方が長期における安定性や安全性があると言われているが、今回はあえて固定バイアスとした。これは10系のいろいろな球を差替えて使いたかったからだ。また、10の様な古典管は球のばらつきも多少有るだろうと思い、それらを簡単に補正するのにも固定バイアス方式の方が好都合だったからだ。今回のアンプではバイアス電圧調整用のボリュームを前面パネルに取り付けて簡単にいつでも調整できるようにしている。これによりマッチドペアー管購入時にたいてい付いている球の特性表に基づき最適なプレート電流に合わせることが出来るわけだ。

各トランス類を始め構成部品は全て通販で入手可能な物で製作した。MJ誌の巻末広告や各社のHPから購入可能だと思う。少し特殊なものとしては出力トランスのP&C製のP906Aだが、今回のアンプはプレート電流が18mAで出力も最大3ワットと少なめな為、1次側インピーダンスが10Kオーム前後の物なら他社製でも殆どの出力トランスが使用可能だと思う。電源トランスは今回は入手の関係で10のフィラメント用のみ別トランスとなってしまったが、新たに購入するなら電源用として1つのトランスにするのが良いと思う。

各コンデンサーに並列に取り付けている小容量のフィルムコンデンサーは省略しても差し支えない。電解コンデンサーのインピーダンスを下げる為の気休めみたいな物だから、、、。カップリングコンデンサーがオイルになっているが、これも他の物(フィルム等)で良いと思う。コンデンサーに付いて言えば、チョークコイルの直後に付いているコンデンサーと10のフィラメント回路のコンデンサーの容量は、残留ノイズ低減の為にも、ケチらずに大容量の物を使ったほうが良い。実際に製作した電源部の回路図の状態で残留ノイズ0.4mVに収まっているので、シングル無帰還アンプとしては良いほうだと思う。電源部はコンデンサーインプットとした為、一応、整流管の規格に従い整流管直後のコンデンサーは4マイクロファラッドとした。このコンデンサーはアメリカ直輸入の中古品のオイルコンデンサーでPCB入りの物である。PCB入りはインピーダンスが低く音響用には良いと聞くが私には全く違いが分からない (^^ゞ  舐めてみれば分かるのかな? 今回のアンプは増幅部のコンデンサーには電解は一切使用せずオイルとフィルムにこだわってみた。なのに電解との違いがあまり良く分からない (;_;) やはりこれは私が脂身肉の好きなカメラマンだからだろうか?

抵抗は回路図上にワット指定のある物は指定以上の物を、指定無き物は4分の1ワットの物で可。

前段が6SN7の1段増幅である為、トータルゲインは一般的なアンプに比べて大分少ない。しかし、プリアンプを接続して使用する事がほとんどの家庭向けオーディオの世界では、かえってこのほうが良いような気がする。と言うのも、プリアンプのゲインは通常かなりある為、ゲインの大きいパワーアンプに接続すると、プリアンプのボリュームをホンの少ししか回さない事になってしまう。これでは、ボリュームの最も特性の悪い部分を常時使用する事になってしまう。ボリュームはガンと回してこそ意味がある。かもしれない、、、なんて思った、、、。今回のアンプは先に作った12AU7のプリアンプにつないで出力管をプラスバイアス領域までドライブして使用している。我が家の低能率スピーカー、ボーズ101Mが結構うるさいくらいに唄うので嬉しくなってしまう。

実際に製作した増幅部はこんなんなってます(PDFファイル16Kバイト)→PDF書類をダウンロード

実際に製作した電源部はこんなんなってます(PDFファイル33Kバイト)→PDF書類をダウンロード

適当なシャーシーが既製品に無かったのでシャーシーから自分で作った。やはり手作りアンプの醍醐味はシャーシー作りからである。球アンプは真空管を目で見て楽しむ部分も多分にあると思う。そんな思いも有り、今回のデザインとした。電源と増幅部を収めたアルミのシャーシーはさしずめ真空管用のお立ち台と言った様相だ。

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配線が終わったら束線する前にまずエージングだ。実際のエージングは、まず増幅部は切り離し、電源部のみの状態で整流管の5R4を取付けて約5時間。この時、各出力電圧のチェックを行う。次に20Wのセメント抵抗やホウロウ抵抗を使用して設計値に近いダミーの負荷をかけて約3時間。ここでも各出力電圧のチェックを行う。続いて電源部に増幅部を接続し、増幅部の真空管は取付けていない状態で電源を入れる。ここで増幅部の各真空管のソケットの端子に所定の電圧が出ているかチェック。正常なら電源を切った後、増幅部の真空管を全て取付ける。この時、整流管は取外しておく。すなわちB電圧を供給しない状態で増幅部の真空管のエージングを行う。これを約5時間。終わったら次はいよいよ整流管を取付けて、つまり全ての真空管を取付けた状態で電源を入れる。B電圧を始め各部の電圧を手早くチェックする。特に出力管のプレート電流は18mAを超えることが無いよう十分に注意する。今回はカソードに取付けてある10オーム両端の電圧を監視しながら行った。約3時間エージングする(写真はこの時の様子)これでエージングの完了である。尚、各工程で電源を切った後、真空管の抜き差し等の作業をする時は、ACコンセントを抜き、尚且つ真空管が十分に冷めてから行うようにする。コンデンサーの残留電圧にも十分注意して作業を行う(感電防止のため電源を切ってから少なくとも15分間位は回路に触らないほうが良い)

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整流管はシャーシ後部に取り付けた。今回使用した整流管は5R4WGBと言う軍用規格の物だ。ハカマの部分がオワンのようになっていてバルブもかなり太く、厚いガラスで出来ている。デザイン的には好みが別れる所だろうが性能はよさそうだ。秋葉原で1本2000円で売っていた。この球は送信管などを使用したB電圧の高いアンプの信頼性の向上には良いように思う。金があれば10本ほど買い占めたいところだ。金があれば、、、。お金さえ、、、。

10Y(VTー25)シングル無帰還 測定結果

電気的特性だけでは云々できないのがアンプである。と良く言われるが、それでも諸特性を知りたくなるのが人情である。比較的職人気質な私としてはやはり気になる所である。早速、簡易的ではあるが計ってみることにする。

測定用の入力ソースは仕事で使っている画像編集ソフトのFinal Cut ProからIEEE1394ポート経由で出力した1KHzのデジタル正弦波信号だ。それをSONY製のDVデッキに入力しピンジャックから出力したアナログ正弦波信号を使用した。この1KHzのアナログ正弦波信号を12AU7SRPPプリアンプを介して10Yパワーアンプに入力して測定する事にした。測定に使用する機器は菊水製のオシロだ。

測定用に際してアンプの負荷は20ワット8オームのホーロー抵抗をスピーカー端子に接続して行った。本来は本物のスピーカーをがんがん鳴らして行うのが本筋であるが、団地住まいであると言う住宅事情をふまえ、ここでは純抵抗負荷とした。

10Yパワーアンプのスピーカー端子の波形。ノンクリップでの最大出力時の波形だ。これ以上入力を入れるとプラス側の波形の頭がつぶれてくると言うギリギリの所の波形だ。下の波形が左チャンネル、上が右チャンネル。左右のゲインに若干差があるようだ。5V/DIVにて測定。8オーム負荷で左8Vp-p、右10Vp-p出ているようだ。出力は約1.3W。

この時のプリアンプの出力端子(10Yパワーアンプの入力端子)の波形。12AU7SRPPプリアンプのボリュームは約50パーセント回した位置。2V/DIVにて測定。約4.8Vp-pと言った所か。時間軸が出力の測定時と違うのはご愛嬌だ。

更に入力を入れて行くとプラス側の波形の頭がつぶれ始める。12AU7SRPPプリアンプのボリュームは約70パーセント回した位置。5V/DIVにて測定。左右チャンネルのゲインは揃ってきたようだ。両チャン共に8オーム負荷で約12Vp-p出ている。出力2.2Wと言った所か。この波形なら何とか音楽鑑賞には堪えられるはずだ。

更にどんどん入力を入れて行くとプラス側の波形の頭が思いきりつぶれてくる。12AU7SRPPプリアンプのボリュームは約80パーセント回した位置。5V/DIVにて測定。8オーム負荷で約15Vp-p出ている。この波形では聴覚上の歪みもかなりあるはずだ。音楽など聴けたものではないだろう。

12AU7SRPPプリアンプのボリュームを最大(100パーセント)まで回しきってみる。波形のマイナス側もつぶれてきた。出力は飽和しているようでそれほどの増加は無い。5V/DIVにて測定。8オーム負荷で約16Vp-p、出力約3.9W。

この時の12AU7SRPPプリアンプの出力端子(10Yパワーアンプの入力端子)の波形。波形に崩れは無い。2V/DIVにて測定。約8Vp-pと言った所か。と言うことは今回製作した10Yパワーアンプは8オーム負荷時の電圧ゲインは約2倍くらいしかないわけだ。とは言っても12AU7SRPPプリアンプのゲインが18dBあるのでパワーアンプのゲインは0dBでも十分実用になるのだが、、、。

最後に残留ノイズを測定してみた。この時は10Yパワーアンプの入力端子を短絡して行った。1mV/DIVにて測定。下の波形、左チャンネルが約1.4mVp-p、上の波形、右チャンネルが約1mVp-pと言ったところか。スピーカーに耳をかなり近づけないとノイズが聞き取れないレベルだ。

果たしてこのアンプは駄作か、または並品か!?

まあ、音楽を聴くことは出来ているし、今のところスモークマシンにもなってはいない。トリタン特有の透明感ある高域も感じられる。製作期間はプリとパワーで足掛け数年。つぎ込んだ費用だって十数万円!。これで納得出来なければ浮かばれないよ!!。

うん!非常に素晴らしいアンプだ!!感動した!!!一生使うぞ!!!!飽きない限り!?

リターン