くさや干物を作る 
くさや干物に関する予備知識

くさや干物を手作りするにあたり、まず最初に予備知識としていろいろ調べてみた。

伊豆諸島の特産品であるくさや干物は、魚をくさや汁(くさや液とも言う)に漬け込んでから乾燥したものである。

くさや汁は微生物(一般にくさや菌と呼ぶらしい)の力を利用した醗酵食品(醗酵漬け汁?)であるとの事。

独特の臭気はくさや汁に含まれるくさや菌の働きによるもので、漬け汁に内蔵などが混ざってしまいそれが腐敗して臭いが出たのでは無い、との事だ。

ちなみに、伊豆諸島では内蔵を取り去りキレイに水洗いしてから漬け込んでいるのだそうだ。

くさや汁に漬け込む時間は魚種や脂ののり具合により変えるらしいが、概ね24時間前後のようだ。

くさや菌の増殖には塩分が必要であり、比較的低温の方が良いらしい。

定期的に攪拌するか、もしくは空気を送り込み酸素を与え、更に、栄養も与えなければくさや菌は死滅してしまうらしい。

また、同じくさや汁をあまり頻繁に使い過ぎるのもくさや菌の活性が落ちてしまい良くないとの事。

伊豆諸島では、くさや汁を半量に分けて1日おきに交互に使用し、貯蔵するタンクは、年間を通じ温度が一定な地下に設置し、ポンプで空気を送り込んで酸素を補給しているとの事だ。

長らく使わない時でも、半月おき位にくさや菌の「餌」となる魚肉を入れ、くさや菌に栄養を与えないと死んでしまうとの事だ。

伊豆諸島では島ごとに、くさや汁の塩分濃度やくさや菌の性質(菌株の種類)が微妙に異なるらしい。

くさや菌の菌株の種類のおおまかな系統として八丈島系と新島系があるらしく、それに伴いくさや汁の性質も若干差異があるらしい。

新島系はニオイが強く塩分濃度が低め(概ね3%)、八丈島系は臭いが弱く塩分濃度が高め(概ね10%)、との事だ。

くさや汁に含まれる有用微生物であるくさや菌(コリネバクテリウムの一種)は抗菌性微生物とも呼ばれ、他の腐敗菌などを寄せ付けないと言う特徴があるらしい。

そのため、くさや干物は常温に放置しても、普通の干物に比べて2倍くらい保存性が良いとの事だ。

くさや汁の臭気は、特有の強いものであるが、室内に置いても他の物にしみ付く事は無いらしい。

以上が、ネットにて即席で調べた予備知識である。

早い話、くさや干物を手作りする為には、くさや汁を作らねばならない、と言う事だ。

尚、本場伊豆諸島のくさや汁は100年前後と言う永い年月に渡り代々受け継がれてきた中で熟成したものなのだそうだ。

よって、くさや汁はそう簡単には作れないと言うのが相場らしい。

が、しかし、一部のサイトには、くさや干物を適当な濃度の塩水に漬けて置く事により、くさや干物に若干残留しているくさや菌が増殖し、くさや汁を再生する事が可能と書かれている。

但し、最近のくさや干物はくさや汁に漬け込んだ後、かなり丁寧に水洗いするそうで(洗い桶を取り替えて3回行うのが標準らしい)くさや菌の残留量が極端に少ないものも有り、そう言ったくさや干物だと再生できない場合もある、との事。

とにかく、今回は購入したくさや干物からくさや汁を再生し、この再生くさや汁でくさや干物を作る、と言う方法にトライしてみる。

これぞ、くさや汁の無断コピーとでも言ったら良いのか、、、<(^^)


くさや汁を作るのに必要なもの

さて、それでは早速、くさや汁作りに取り掛かる事にする。

用意するものは、くさや干物、くさや汁を入れておく容器、食塩とそれを計る秤量計または計量スプーン、塩分の濃度管理のための濃度計(濃度計は無くても可)

くさや干物は伊豆大島は波浮港にある「くさや製造販売やまよ」にてネット通販で購入した。

容器は手持ちの関係で果実酒用のガラス製の容量4リットルの物を利用したが、比較的広口で塩水に腐食しない材質のものなら何でも良かろう。

塩水を作るにあたって、濃度はある程度幅があるようなので正確な計量でなくても良いと思うが、今回は手持ちの関係で、写真現像用の電子秤量計とメスカップを利用した。

くさや汁を使い続けて行くうちに減少するであろう塩分と水分の補給量を管理するために、やはり手持ちの関係で、写真現像用の定着液用濃度計を使う事にした。

濃度計はあらかじめ「真水」と「測定したい濃度の塩水」を使用して、指し示す目盛りの位置を確認しておく。

濃度計がない場合は、かなり大雑把ではあるが、くさや汁をなめてみてその塩辛さで補給する塩加減や水加減を判断するのでも可能かと思う。

尚、濃度計は魚釣り用の棒ウキ等を利用して自作も可能と思う。

本格的にやるなら、食品の塩分濃度を計測するための「ボーメ計」なる濃度計をネットオークションやネット通販で購入するのも良かろう。


くさや汁の作り方の概要
2007年8月26日

今回は水950ccあたり食塩50gを入れて、塩分の濃度は概ね5%とした。

室内に保管する事を考慮し、防臭のため密閉出来る構造の容器を使用した。

密閉により酸欠にならぬように、ある程度の空間を確保する意味も込め、容量4リットルの容器に約3リットルの5%塩水を作った。

これに、ネット通販で購入したくさや干物(30センチ程の大きさの青ムロ4尾とトビウオ1尾)の頭と尾の部分を切り取り漬けておく。

勿論、漬けるくさや干物は焼く前の物でなければならないのは言うまでもないが、、、。

身の部分を使わないのは、ただ単純に勿体ないからだ、、 (^O^;)

実際にこれを仕込んだのは2007年8月25日だから、写真のものは漬け込んで24時間が経過している。

今回使用する容器は、大きさ的に我が家の冷蔵庫には入らないため、気温29度前後の室内に蓋をした状態で置く事にした。

置き場は直射日光が当たらず出来るだけ温度変化が少ない場所を選び、とりたて容器を遮光するような事はしていない。

くさや干物のタンパク質などが解け出した為か、やや白濁しているものの、大きな変化は無い。

濃度は、くさや干物を漬け込む前の5%塩水の時と同じ所を指し示している。

ニオイはくさや干物特有の「汲み取りトイレ臭!?」がするが、これは漬け込んだくさや干物そのものが臭っているのだろう。

この液を、1日~2日に1回位、蓋を開け適当な棒を使い1分間攪拌して再び蓋を閉めておく。

これを毎日繰り返し、変化を観察する事にする。


2007年8月29日

塩水にくさや干物を漬け込んでから3日後。

今年は記録的な猛暑であったが、今日あたりから暑さも和らいで来たようだ。

塩水の表面にくさや干物から出た黄褐色の脂が若干浮いているが、脂とは異なる乳白色のカスの様な物も浮いている。

濁りもやや強くなり、しかも若干ではあるが濁りの色が黄褐色になったようだ。

においの強さには、たいした変化は無い。

濃度計は5%塩水と同じ所を指し示している。

濃度計に付着しているのは塩水の表面に浮いていた乳白色のカスの様な物だ。


2007年9月1日

液の色は更に茶色味を増したようだ。

においはあまり変らず。

尚、表面に浮かんだ乳白色のカスの様な物は、一度撹拌すると2日位は発生しないようだ。

濃度にも変化は無い。

入れておいたくさや干物は取り出す事にした。

取り出したくさや干物は見た所、入れた時と比べてたいした変化は起きていないようだ。

勿論、腐った様子も無い。

取り出したくさや干物は、念のため取りあえず乾燥して保存しておく事にした。

撹拌はてんぷら用の箸を使用し、出来るだけ液中に空気を巻き込むように箸を強く左右に動かして掻き混ぜる方法で行っている。


2007年9月3日

濃度、液の色、ともに変化はなし。

くさや干物を出してしまったせいか液の表面に白いカスのような物も現れない。

においはややどぶ臭さが混じってきたようだが、撹拌した後には、また、くさやのにおいに戻るようだ。

果たして、これはくさや汁なのか?

何とも不明ではあるが、とにかく、液の変化が一段落したようなので、ここで第2段階へと進む事にする。

勿論、第2段階とはこの液に実際に魚を漬けてみる事だ。

漬ける魚は良く行く相模湖上流域の釣り場で釣った32cmのニゴイだ。

本当は海の魚の方が良いのだろうが、今回は諸般の事情で川の魚とした。

脂が少なく大きさや形も青ムロと似ているのでよしとしよう。

腹開きにしてから良く洗った物を漬け込んでおく事にする。


2007年9月5日

ニゴイを漬け込んでから丸2日。

液の表面に薄く乳白色の膜が出来ている。

醗酵していると見えて、数カ所に気体が発生して出来た泡が認められる。

くさや干物の頭と尻尾を漬け込んだ当初もそうだったが、魚を入れると乳白色の膜が出来るようだ。

くさや干物の時は数日後には膜が出来なくなってしまったが、予想するに、入れたくさや干物自体が既に熟成している物だったから、もうそれ以上熟成が進まなかったと言うことなのだろうか。

濃度は5パーセントの塩水の時と同じだ。

においの強さは変化無し。

汲み取りトイレのそれである。

別の例えをすれば山小屋のトイレの臭いである。

私は登山に頻繁に行く方なので、この臭いには比較的親近感が有り、大して嫌なにおいだとは思わない、、、のではあるが、、、(^_^;

漬けたニゴイを取り出してみると、意外にも肉の色はほとんど変化していない。

このまま乾燥してみたいのだが、天候の影響で(台風が近付いている)天日干し出来そうも無いので、再び液の中に戻してもうしばらく漬けておく事にする。


2007年9月8日

ニゴイを漬け込んで丸5日。

醗酵は続いている様子で、液の表面には乳白色のカスの様な物と小さな泡が浮いている。

漬けたニゴイはやや浮き上がった状態になっていた。

液の濃度は概ね変化無し。

色はやや濁りが強くなり、茶色味が若干増したようだ。

においは「汲み取りトイレ臭」に「ぬか漬けの糠床のにおい」が合わさったような複雑なものに変ってきたような気がする。

ニゴイを取り出しバーベキュー用の焼き網を利用して天日干しする事にした。

干す前に、ニゴイに付いている液を水道水で軽く洗い流し、キッチンペーパーで水分を良く拭き取った。

ニゴイの肉の色は、漬け込む前と比べ、大きな変化は無いようだ。

強いて言えば、若干、乳白色に変化しているか?

3日前に取り出した時と比べ、肉はかなり柔らかくなっているようだった。

乾燥が進んで行くほどににおいは強くなって行くようだ。

そのにおいは、間違い無くくさや干物のにおいだ。

夕方まで7時間ほど天日で干した後、焼いて食べてみた。

5日間も漬けておいたせいだと思うのだが、肉がまるでカマンベールチーズの様な柔らかさだった。

味は非常に淡白なものであるが不味くは無い、と言って、取り立て滋味深いと言った感じでも無い。

これも、漬け過ぎが原因か?

少なくとも腐った食品の味ではない事は確かだ。

 


2007年9月9日

近くのスーパーで夕方からの半額セールでアジが2尾150円で売られていた。

頭とワタは取り除いてあるが、頭が付いていれば25センチはありそうな結構大きいヤツだ。

早速、買って来て開きにして漬け込む事にした。

20時半にこの状態の物を漬け込んだ。

明日の午前中に取り出せば12時間前後は漬けた事になろう。

そうすれば、やや標準的な漬け時間のくさや干物が作れるわけだ。


2007年9月10日

15時間後の11時半に取り出した。

やや市販品と同じくらいの漬け時間だ。

取り出す前の液の表面には乳白色の膜が浮いていた。

ちなみに、左の写真の液は取り出す時に撹拌されたため乳白色の膜は見えなくなってしまっている。

濃度は変化無し。

においも「汲み取りトイレ+ぬかみそ」で変化無し。

色は茶色が更に濃くなったようだ。

取り出した魚は直ちに干す事にした。

今回は水洗いはせず、汁気を良く切ってから更にキッチンペーパーで良く拭いて、その後、ベランダの物干竿に吊るしておいた。

曇り空なので天日干しは出来ないが、日中の気温は25度位で風もあるので、さしずめ一夜干しと言った感じだ。


2007年9月11日

きのう今日と終日曇り空だったので天日干は出来なかった。

日に当てなかったせいかあまり乾燥がすすんでいない。

においはニゴイの時よりやや弱いが、まぎれもなく、くさや干物のにおいがする。

早速、昼ご飯のおかずに一枚焼いて食べてみたが、購入したトビウオのくさや干物に近いような味わいと食感であった。

もう一枚はそのまま夜まで吊るしておき、深夜に酒の肴として焼いて食べた。

12時間程の時間差ではあるが、肉がだいぶ柔らかくなっていた。

水洗いしないで干した事に加え、曇り空であった為、乾燥があまり進まず乾燥中にも熟成が進行した事などが原因ではないだろうか?


2007年9月13日

液の撹拌は、箸でかき回すのは手が疲れるので、ここ数日は写真現像用のエアーポンプを流用している。

エアーを細い管から液の中に吹き込むとともに、吹き込まれたエアーが液を撹拌するわけだ。

この装置で、魚が入っていない時のみ、1日1時間前後撹拌している。

この装置を使いはじめたもう一つの理由は「くさや汁の中の好気性菌が魚の熟成に寄与し、嫌気性菌は臭気の発生に関係している」と言うような事を書いているホームページがあった為、空気を沢山送り込んだ方が良いような気がしたからだ。

実際、この装置を使いはじめてから「汲み取りトイレ臭」の中のアンモニア臭が少なくなったような気がする。


2007年9月14日

最終的な実証試験として再びニゴイを漬けてみる。

28センチと21センチのニゴイ、それに9センチ前後のウグイも一緒に漬けてみる事にした。

何故、川魚かと言うと、私としては川に釣りに出かける事が多いので、これからもくさや干物に川魚を使う機会は多いはずだ。

そこで、まず、川魚でデーターを取っておきたいと思ったからだ。

ニゴイは背開きに、ウグイはワタを抜いて丸のまま、21:00に漬け込んだ。


2007年9月15日

15時間後の12:00に取り出した。

今日は天気も良いので早速これを天日干しする事にする。

液の濃度に変化は無し。

においは、ここ最近はこの液を作った当初よりは若干和らいだ感じだ。

それとも、ただ私の鼻が慣れて来ただけか!?

色はヤクルトとかビックルとかの乳酸菌飲料のような色合いだ。

約半日、天日干しした後、網焼きにして試食してみた。

天日干しする事により、くさや干物特有のにおいが強まるようだ。

今回の物は前回のように柔らかすぎる事はなかった。

味も市販のアオムロのくさや干物にもひけを取らない良い味であった。

漬け込み時間と天日干しは、くさや作りにおいて重要な要素のように思える。

本日を持って自家製くさや干物完成としても良かろう。

苦節二十日(たったの!?)念願の自家製くさや汁によるくさや干物が出来上がった!

この干物

におうわねと君が言うから

今日が私のくさや記念日(盗作)


今後は、気が向いた時に、時おりこの自家製くさや汁の様子をレポートして行うと思う。


、、と、言う事で2008年4月17日

半年以上が経過した。

最初のうちは一ヶ月に2回くらいは作っていたのだが、冬に入り釣りに出る回数が減るとともにくさやを作る回数も減ってしまい、特に1月からは全然作っていなかった。

久しぶりにハヤで作る事にした。

作らない期間でも月に最低一回は1時間以上空気を吹き込んで撹拌だけは行っていた。

取り立て魚の肉などを「くさや菌の餌」として入れるような事はしなかった。

色は当初よりだいぶ濃くなったようだ。

においは相変わらず「くさや」のにおいだ。

比重を測るとやや薄くなっている様子であった。

魚を漬け終わった後に出る若干の残り汁に塩を加えてから戻す事にした。

取りあえず、塩は大さじ山盛り1杯加えてみる。

まずは、塩と残り汁を混ぜてから、、。

それをビンに戻して、良く撹拌する。

比重を測ると、やや上がったような気が、、、。

しかし、まだチョット低い気が、、、。

面倒臭いからビンに直接塩を入れる事にした。

大さじ山盛り1杯の塩を加えてから良く撹拌する。

比重はかなり改善され比重計の目盛りは概ね濃度5パーセントの所を差している。

大さじ大盛り2杯の塩を加えた事になる。

ちなみに、今回作ったハヤのくさやもなかなかどうして、素晴らしい出来栄でありました。

では、また、続きは気が向いた時にでも。


2008年10月12日

20081012-1

くさやの本場、伊豆大島に釣行したおりに釣った釣果のマアジ4尾でくさやを作ってみた。

8時間ほど漬け込んでから天日干しした。

20081012-2

漬けたマアジを取り出した直後に比重を測定してみた。

前回、塩を追加して比重を調整した時の値より若干濃度が下がっているような気もする。

が、概ね濃度5パーセントの所を差しているので、今回は塩の追加はしない事にした。

20081012-3

漬けた魚を取り出した直後と、その後、エアーポンプを使い1時間ほど空気を吹き込んだ後のくさや汁の色の違いを観察してみた。

魚を取り出した直後、言うなればくさや汁の使用直後はやや明るい茶色をしているが、空気を吹き込んだ後はやや暗い感じの茶色に変化するようだ。

色の濃さ、と言うか透明度(濁り具合)はここ数カ月間たいした変化が無いようだ。

これ以上濃くなる事は無いような気がする。

くさやの本場、伊豆七島のくさや汁は「やや粘り気のある液体」などとの情報もあるが、当家のくさや汁には粘りは認められないようだ。

では、また、気が向いた時にでもレポートします。


2008年11月22日

くさや汁の色

最近、釣りで17cm前後のアジを釣る事が多くくさやを作る機会もそれなりに多い。

前回レポートの10月12日と同様にくさや汁の色の変化を比較してみた。

分かりやすいように前後の写真を並べて掲載する。

空気吹き込み時間は前回と同様約1時間。


2010年9月28日

今日のくさや汁君

そして、約3年の年月が経ちました、、、今日のくさや汁君はこんなです。今年の夏はくさや汁君にとってはチョイ酷な夏だったのでございます。と言いますのも「東京都心の今年の真夏日日数は71日となり、2004年の70日を上回って1879(明治9)年の観測開始以来最多となった」てな記事が9月22日付け新聞に掲載される程の猛暑だったのでございます。でも、それ以降は気温は急降下。急に涼しくなったのであります。くさや汁君も今はホッと一息。それでは、またの機会までご機嫌よう!

2010 yukitan@attglobal.net

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