製作コンセプト

非常時の室内照明としても実用的に使える「堅牢、小型、明るい、省エネ、汎用的」な乾電池式LED照明を作る事にした。実はこれと同型でLED3個使用のものを数年前に製作し、釣りやキャンプでのBBQ等で使っている。今回はそれの発展型で、より明るいものとより小型のものを作る事とし、その製作過程を詳しく紹介してゆく。

 
回路を考える

回路は非常にシンプルだ。単3乾電池3本での使用を基本とし、パソコンのUSB端子につないでも点灯できる設計とした。そのため電源電圧の安定化は必須だ。


部品を集める

入手可能な部品で作るしか無いのがアマチュアの電子工作の定めだ。要の部品はLED。超高輝度、視認性の良い電球色、照射角が広角、1W型。現時点で最もハイコストパフォーマンスなデバイスを選んだ。

レギュレーターIC。出力3.3V 500mAの面実装タイプのデバイスだ。少しでも電源利用効率を上げるため入出力電圧差の少ない低ドロップタイプのデバイスを選んだ。

レギュレーターICの入出力部に付けるコンデンサー。これはレギュレーターICに付属のスペックシートに指定されている容量のデバイスを選ぶ。今回は写真の右から2番目ディップ型タンタルにした。

電流制限抵抗。この抵抗の値は実装途中でのカット&トライで決めてゆく。とりあえず1オーム、4.7オーム、10オームの3種類を用意した。この抵抗はLEDが静電崩壊した時などの安全装置として絶対に付けたほうが良い。

筐体。今回はタカチのプラスチックケースを使うことにした。大きさは4個用 50mmX50mmX15mm、2個用 52mmX35mmX11mm。

基板。サンハヤトの片面ガラスエポキシ基板を用意した。


部品配置と基板のパターンを考える

部品が集まったら部品配置、いわゆる実装を考える。実装は電子工作において最も知識と経験を要する技術だ。これは使う部品を全て用意してから行う。部品の形や大きさが分からなくては始まらないのは理解できよう。

こちらはLED4個を使うタイプの部品実装案。部品実装を考えると共にプリント基板のパターンも決めてゆく。配置図は原寸を基本とし、使う部品が小さい場合は全体を2倍の大きさで書くのがわかりやすい。

こちらは登山で使う一人用テント内での使用を想定し、より小型化、省電力化したLED2個を使うタイプの部品実装案。部品の実装案が決まればプリント基板のパターンも決まる。


プリント基板を作る

ガラスエポキシ基板を加工してプリント基板を作製する。

試作品やアマチュアの電子工作のような1枚のみの作成ならカッターナイフで銅箔に銅箔のみ切るくらいの浅い切り込みを入れて不要部分を剥離するのが簡単で手っ取り早い方法だ。

例えば基板にラウンドを作りたいなら、このようにカッターナイフで銅箔面に切り込みを入れて。

カッターの刃で銅箔の一部をめくり。

めくれた部分をニッパーで摘んで少しづつ慎重に引き剥がす。

このようにラウンドが出来た。カッターの刃の先にあるのが引き剥がした銅箔だ。

この要領で目的のプリント基板を作る。こちらはLED4個を使用する方の基板。

こちらはLED2個を使用する方の基板。

ここまで出来たらケースに仮り入れしてみる。こちらはLED4個を使用する方の基板。

LED2個を使用する方の基板も同じくケースに仮り入れしてみる。

問題なければクレンザーで銅箔面を磨き銅箔表面の酸化膜を除去する。

こうすることでハンダ付けが格段にやりやすくなる。

これでプリント基板の完成だ。


部品のハンダ付け

用意するものは半田ゴテ、半田ゴテを置く台とコテ先を拭く為の濡れた雑巾など、それと糸ハンダ。ここから先はLED4個の方で説明してゆく。LED2個のタイプも作り方の基本は同じだ。

半田ゴテはセラミックヒータータイプの15W位の電子工作用のものを選ぶ。小手先は細いほうが作業がやりやすい。30W以上の半田ゴテは今回のような電子工作には向かない。

糸ハンダは若干高価でも良質のものを選ぶ。写真はアルミット製の太さ1mm程の糸ハンダ。なるべく細いものを選んだほうが電子工作には都合が良い。勿論、フラックス入の物でないとダメだ。

まずは基板の銅箔面全体を半田でメッキする。

こうすることにより部品を半田する際の半田ミス(いわゆる天ぷら半田)を無くすことが出来る。また、回路の電導性も向上し都合が良い。

半田メッキが完了。ここに部品実装案に従って各デバイスをハンダ付けしてゆく。

電流制限抵抗を除く全ての部品のハンダ付けが完了。尚、電流制限抵抗はこの後、仮り付けして実際の電流値を測りながら最適な値を決めてゆく。

電源の極性の逆接続に対して回路を保護する目的でダイオード1本を追加した。回路図上で緑線で囲った部品だ。乾電池で動作させる機器なので乾電池の逆挿入に対する保護だ。


電流制限抵抗の値を決める

電流制限抵抗の最適な抵抗値を決める作業だ。この作業は実験用の安定化電源とテスターがないと行えない。無い場合には設計段階での計算値の抵抗をハンダ付けする。今回のLEDで電源電圧3.3Vなら10Ωを選べばまず大丈夫。

設計段階での計算値より若干大きめの抵抗を仮り付けして、その時の電流値を測定する。徐々に抵抗値の小さい抵抗に取り替えながら最適な抵抗を決めてゆく。

今回の回路では10オームとなった。この時のLED1個に流れる電流は実測45mA。LEDへの供給電圧3.3Vなので消費電力は約0.15W。今回使っているLEDは最大定格1Wなので十分余裕がある。

電流制限抵抗をハンダ付けしたら点灯試験をしてみる。回路全体に流れる電流は200mA。LEDやレギュレーターからの発熱はほとんど無い。


部品の実装を終えたプリント基板

これで全てのデバイスの実装が完了した。

ここまで出来てしまえば電子回路としては90%完成したも同然だ。

しかし、アマチュアが行う電子工作はここからが難しい局面になる。アマチュアが最も苦手とする筐体の加工が待っているからだ。筐体の加工如何で見た目の出来栄えが大きく左右される。

基板の裏面には製作年月日や回路の定格などを記入しておくと良い。

今回の基板は裏面に電源接続用の端子を引き出した。


ケースの加工

筐体。いわゆるケースはタカチから出ている汎用のプラスチック製ケースを使う。アマチュアが行う電子工作ではプラスチック製ケースを使うのが最も簡単にしてキレイに作れる方法だと思う。

LEDの位置に合わせて穴あけが完了したら仮り合わせしてみる。

まあ、こんなものでしょう。良いんじゃない?


基板の防水処理

アウトドアでの使用を想定するなら防水処理は必須だ。防水の方法としては基板そのものを樹脂などでコーティングしてしまうのが手っ取り早く確実な方法だ。使う樹脂は性能面から2液式のエポキシ接着剤アラルダイトがお勧めだ。

基板のコーティング準備として接着剤が着いてほしくない部分にマスキングを行う。

このようにネジ穴や基板の周りにセロファンテープなどを使いマスキングを施す。

接着剤を竹串などを使って基板に塗りつける。この時、LEDのレンズ面にはつけないように注意する。

ドライヤーを使って40度位に加熱すると接着剤の流動性が増して細部にまで浸潤し防水性が完全なものとなる。使う接着剤は標準硬化型(24時間で硬化するタイプ)の物が良い。

硬化するまで水平な場所へ安置しておく。尚、エポキシ系の接着剤は気温20度以下では硬化が極端に遅くなるため、特に冬期はなるべく暖かな場所に置いておくのが良い。

硬化が完了しマスキングテープを剥がした状態。ネジ穴周辺の接着剤はカッターナイフ等で取り除く。これで雨に濡れるのは勿論、水没しても短時間なら大丈夫な程度の防水性能が確保できる。


最終組立

それでは最終組立。USBケーブルを接続してケースに納めれば完成だ。USBケーブルはコストパフォーマンスを考え100均で購入したこのUSB充電専用ケーブルを使うことにした。

片側に標準のUSB端子、もう片側にはマイクロUSB端子が付いている。マイクロUSB端子の方を切り取ってしまっても良いのだが、今回はネンゴロにバラしてやる事にした。

なるほど! プラス側とマイナス側が一目瞭然だ。取り外した後のマイクロUSB端子も何かに使えそうな気がする。

極性を間違えないように基板の電源端子にハンダ付けする。

接着剤とかコーキング材等を使って接続部の防水加工を行う。今回は1液硬化タイプで硬化後に透明で弾性のあるゴム状になる接着剤を使用した。

パソコンのUSB端子に接続して点灯試験。尚、ランプの入切スイッチは堅牢性と防水性の観点から設けていない。点灯消灯はコネクタの抜き差しで行う。省エネ設計なのでこれでも十分実用になる。

LEDの前面に保護用の透明樹脂板を付けることにした。使う樹脂板は壊れた掛け時計から取り外したアクリル板だ。壊れた物はそのまま捨てないでバラして部品ごとに整理しておくと工作の素材として利用できる。

金ノコでアクリル板を必要な形に切り出し、ヤスリで整形する。

アクリル板をケースに付けるのは、この超強力が謳い文句の両面テープだ。メーカーの説明書きを見ると溶着に匹敵する接着強度なのだそうな。

超強力が謳い文句の両面テープは接着する素材ごとに様々な製品があるが、テープの厚みがある程度厚いものが比較的多い。今回のような用途ではこの製品のように極薄の方が都合が良い。

ケースへの接着が完了したアクリル板。

出来上がった基板をケースに極小のネジで取り付ける。今回のタカチ製のケースにはこの基板取付用のネジは付属していない。このネジも壊れた掛け時計から取り外した物を利用する。

ケースをネジで閉めれば出来上がりだ。ちなみにこのネジはケースに付属している。


便利に使うための工夫

ホームセンター等で購入できるこのマジックテープ。ベルクロなどの商品名で売られているものだ。これを適当な大きさに切ってケースの裏面に接着剤で貼り付けておくと便利だ。

例えばこのように100均で購入した名札入れを利用して、これにマジックテープを付けた物を作る。

これを使えば衣類や帽子などに挟んで使うことが出来る。

衣類に直接マジックテープを縫いつけておいても良かろう。

クーラーボックスにマジックテープを接着しておけば釣り場での照明に便利に使える。


乾電池用の電源ボックス

乾電池で使いたい場合には乾電池用の電源を自作する。用意するものは写真のような乾電池3〜4本用の電池ボックス。それとUSB延長ケーブルもしくは変換ケーブルだ。

自作は簡単。電池ボックスにUSB延長ケーブルや変換ケーブルのメス側を切り取って極性に注意してつなげば完成だ。写真のように3本用の電池ボックスが入手できればベストだ。

このようなスイッチ付きの電池ボックスも市販されている。電池の本数はコストや効率の点から3本がベストだが回路にレギュレータが付いているので4本でも問題なく使える。尚、2本でも若干暗くなるが実用的な明るさで点灯する。


完成品

USB型の電源ならパソコンのUSB端子、スマホ用の外部電源、各種アダプター類など、どんなものにもつなげる高い汎用性。レギュレータ内臓なので広い電圧範囲で使える信頼性。

電源ボックス込みで手のひらに乗るコンパクト性。写真は単3乾電池4本用の電池ボックと共に。これで8時間以上連続点灯が可能。ランプ部は機械的強度も抜群だ。

超広角な照射角。屋外、屋内にかかわらず汎用の照明として使いやすい。特に夜釣りでの道具の片付けや帰り道を照らす照明としては広い範囲をくまなく照らせるので安全かつ便利な照明だ。

ランプ部は水没に耐えられる防水性。写真はLED2個タイプの完成基板の防水試験の様子。コッヘルの水に浸けて約1時間ほど経過しているが問題なく点灯している。電池部をビニル袋で包むなどの簡易防水を施せば、ランプ部は雨や海水を被っても大丈夫。 登山や海釣りでの照明には最適だ。

アウトドアで頼りになる照明装置です。時期は未定ですが健啖隊ではランプ部の完成品の販売を計画しています。販売は健啖隊が運営するネットショップ「健啖隊PX」で行う予定です。乞うご期待!

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